理系小説−科学技術と愛

難病から救われた理香

I.理香の苦しみ

1. 難病との闘病生活

 理香は、心の美しい少女だったが、幼い頃から難病との闘病生活を強いられていた。

 その難病を治療する方法はなく、多くの者が30歳前後で死んでしまう病気であった。

 しかし、理香が大学生のときに、難病の画期的な治療法が開発され、理香は救われた。

2. 理香の感謝と医学部再受験

  理香は、難病を直してくれた医者にとても感謝した。

 理香の在籍していた生物学科には、気の合った同級生である理敬郎がいた。

 理敬郎は言った。「君を治したのは、お医者さんじゃない。難病の治療法が開発される前は、お医者さんはお手上げ
 だった。もっと難病の治療法を開発した理系に感謝をしなければ。」

 理香は言った。「難病の治療法を開発した人は誰なの?」

 里敬郎は言った。「直接的には、ドイツのリケッル博士という研究者が君の難病の治療法を開発した。治療法の
 決め手となったリッケル博士の分析装置には、日本の理山博士の理論が使われている。そして、日本の理慶電
 機の開発チームが、分析装置の性能を高めたことがブレークスルーにつながっている。その装置には、世界一の
 技術を持つ日本の中小企業である理夏珪製作所の精巧な部品が使われており、それが高性能実現の鍵となっ
 ている。」

 理香は思った。「私の難病の治療法は、多くの理系の助けがあって開発できたんだ。」

 理香は、里敬郎の説明を聞いて、自分の知らない理系への感謝の気持ちを高めていった。

3. 理香の理山博士らへの面会

 理香は、理山博士や、理慶電機の開発チーム、理夏珪製作所の技術者に会いに行った。

 みんな良い人ばかりだった。

 理香の病気が治ったことを心から喜んでくれた。

 理香は思った。「こういう理系の人たちが、世界中の多くの人々の命を救っているんだ。」

 しかし、残念な話も聞いた。

 理山博士は、才能のあるポスドクがなかなか良い条件での職を見つけられないという話をした。

 理慶電機の開発チームは、開発のR&D費用がなかなか捻出できないという話をした。

 理夏珪製作所の技術者は、技術があっても、中小企業の資金繰りが厳しいという話をした。

 理香は思った。「もっと科学技術の発展を社会がサポートしなければいけないわ。」

4. 科学技術と愛

 理香は、科学技術の発展に対し、政府がもっと真剣になるように訴えかけた。

 人々は、愛の力に動かされていった。

 里敬郎は言った。「科学技術の力は、太陽の光と同じように、等しく人々を照らしてくれる。科学技術は、愛なんだ。」

 理香の訴えかけにより、科学技術対策予算の増額は、日本のお金の使い方としては悪くないと思う人が増えていった。

 対策予算の一部は、優秀な科学者・技術者の年収1億円1万人計画に充てられた。

5. 理系への社会的評価の根本的変化

 優秀な科学者・技術者の年収1億円1万人計画は、理系への社会的評価を少しずつ変えていった。

 親は、子供たちに科学技術の英才教育を盛んに受けさせるようになった。

 理科離れは解消し、子供たちは目を輝かせて科学技術への関心を語るようになった。

 理学部・工学部の偏差値は上昇した。医学部よりも偏差値が高くなった工科系の学校もあった。

 社員から、年収1億人1万人の受賞者が出れば、企業にも大きな宣伝効果がある。

 企業は、理系を一層大切にするようになったのである。

6. 世界の科学技術力の増大と、難病の治療法の開発

 日本の科学技術力は大いに強化されていった。

 特に、優秀な科学者・技術者の年収1億円1万人計画は、大胆な施策として、他の先進国の賞賛を受けた。

 そして、多くの先進国が追随するに至ったのである。
 
 これは、世界の科学技術力を大きく増加させていった。

 難病の治療法の開発が大いに促進されたのである。

II. 科学技術と愛の力

1.科学技術と愛の力

 理香は里敬郎に言った。「人間には愛があるわ。科学技術の発展に賛成してくれた多くの人のおかげで、
 多くの難病の人を救うことができたわ。」

 里敬郎は言った。「人間は、つまらないことで争っている。その性質は、有史以来あまり変わっていないんだ。
 人類が美しいものに進化したという保障はない。しかし、世界は進歩している。それは、人類が変わったから
 ではなく、科学技術の水準が上がったからなんだ。」
 
 理香は言った。「でも、人間も、科学技術のおかげで豊かになり、つまらないことで争わなくなったわ。たとえば、
 一切れのパンのために争うことは、ローマの時代より減ったわ。」

 里敬郎は言った。「人間は、変わっていない。今でも、餓えて一切れのパンが命にかかわる状況になれば、人
 は必死にパンのために争うだろう。」

 理香は言った。「人間も進歩しているのではないかしら。人間の愛の力は、有史以来増えていないのかしら。」

 里敬郎は言った。「人間は、変わっていない。科学技術自体が愛なんだ。人類のレベルを引き上げるためには、
 科学技術の水準を上げていくしかないだろう。古来、多くの人が愛を説いた。人間は変わったかい。どうして、
 平安時代の小説は、今でも人の心を打つのだろうか。そのころの技術は古びてしまっているのに。」

 理香は言った。「それは、科学技術は進歩しているけれど、人間の本質はあまり変わっていないからではない
 かしら。」


2.理香が会った曾おばあちゃん

 理香は、親戚の曾おばあちゃんのところに遊びに行った。

 曾おばあちゃんは、理香が難病から全快したことを知って本当に喜んだ。

 曾おばあちゃんは、曾おじいちゃんを当時の難病で亡くしたことを語った。

 それ以来、曾おばあちゃんは、とても苦しんで、もぬけの殻のようになった時期があることを話した。

 理香は当時の難病とはなんだろうと不思議に思って言った。「おじいちゃんは、どんな病気で死んだの?」

 曾おばあちゃんは言った。「脚気という病気で死んだんじゃ。」

 理香は言った。「脚気は、ビタミンB1が足りなくて起こる栄養障害でしょ。そんなことで死ぬの?」

 曾おばあちゃんは暗い顔をして言った。「私が死なせたようなもんだ。曾おじいちゃんが苦しんでいるのに、
 どうすればよいのかわからなかったんじゃ。」

 理香は、曾おばあちゃんの自責の念に駆られた表情を見て、悪いことを言ってしまったことに気づいた。

 曾おばあちゃんは続けた。「当時は、脚気で死ぬ人がとても多かった。みんなばたばたと死んでいったんじゃ。
 原因もわからなかった。弱り続ける曾おじいちゃんを必死で看病したけれど、当時は不治の病だったんじゃ。」

 そういうと、曾おばあちゃんは泣き伏せてしまった。

 理香は言った。「私も、難病で苦しんだけれど、たぶん100年後の人は、私の病気も脚気と同じ程度にしか考えられ
 なくなり、なぜ私が難病で苦しんでいた分からないと思うわ。曾おばあちゃんの気持ちはよく分かるの。」

 曾おばあちゃんは、理香の説明に慰められながらも、とても無念そうにいった。「ビタミンB1が早く発見されていれば
 曾おじいちゃんは死ななくて済んだのに。」

 理香は、里敬郎に言った。「科学技術の発展は愛であり、それは平等に誰の下にも降り注いでいることがわかったわ。
 科学技術の発展おかげで、曾おばあちゃんのような苦しみを、私は家族に与えないで済んだの。」

 里敬郎は言った。「科学技術は愛であり、それは平等に誰の下にも降り注いでいるんだよ。」
 

この小説はフィクションであり、特定の人物や史実との関係は全くありません。

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